10年程IT業界に携わって来た中で、多重請負構造がもたらした「IT土方」と呼ばれる現象、主に「偽装請負」について、思うことがあったのでまとめてみました。
IT業界に興味がある方にとって少しでも参考になれば幸いです。
1.IT土方とは?
ざっくり言うと、下図のような多重請負と呼ばれる構造のことを指しています。
土木建築業(通称:土方)によくある業態構図が、IT分野にももたらされた結果、このように呼ばれるようになりました。
問題自体はこの構造ではなく、1次請け業者以降が請負を偽装して、この構造が複雑化している、という事が問題と言えます。
基本的に、元請けが多重請負を禁止している所が多いです。
それでも多重請負構造が問題になるのは、この構造を利用した「偽装請負」が減らないからではないかと思います。
多重請負のメリットデメリット
多重請負の構造自体が悪いわけではないため、構造上のメリットとデメリットについて説明します。
①専門性の活用:下請け企業が各々の専門性を活かして作業を行うため、高度な技術や専門知識を必要とするプロジェクトにおいて、高品質な成果を得ることが可能
②リスク分散:複数の下請け企業に作業を分担させるため、リスクの分散と軽減効果がある
③地域活性化:地域の中小企業や個人事業主がプロジェクトに参加する機会が増えるため、地域経済の活性化につながる可能性がある
④柔軟性の向上:必要に応じて下請け企業の追加等が容易なため、プロジェクト規模や内容に柔軟に対応することが可能
⑤コスト削減:各下請け企業が競争力を持って価格を提供するため、総合的なコスト削減が可能
※メリットを享受するためには、適切な下請け企業の選定、契約の明確化、適切なプロジェクト管理が重要
①品質管理の困難さ:下請け企業同士の連携やコミュニケーションがうまくいかない場合が多く、元請け企業が最終製品やサービスの品質を管理するのが困難
②リスクの移転:元請け企業が下請け企業へ対しての責任転嫁が発生する可能性がある
③情報の非対称性:元請け企業と下請け企業間の認識の齟齬によって、問題が生じやすくなる
④納期遅延:下請け企業同士の調整やスケジュールの衝突により、納期遅延が発生するリスクが高い(特に中間業者を多く挟む場合、調整に時間がかかるため)
⑤コスト増加:各企業が利益を得るために利益を積み重ねるため、中間業者が介在するほどコストが増加する傾向がある
※デメリットを避けるためには、契約の明確化、適切なコミュニケーション、リスクの共有など、慎重なプロジェクト管理が重要
偽装請負が生まれる要因
主たる動機は「コストカット」にあると思われます。
①法規制への対応:企業の法令遵守には、コストや手続きがかかることが多いため、企業がこれらを回避するために偽装請負を行う
②コスト削減のため:賃金や福利厚生費用の削減のため、企業が労働者を正規雇用ではなく、請負業者や派遣労働者として雇用することが多い
③競争力の維持:競争力を維持するためにコスト削減を図る必要があり、他社が偽装請負を行っている場合、それに追随する必要がある(負のスパイラル)
※偽装請負は公正な競争を阻害する要因となっているため、法規制や監督体制の強化、企業モラルが求められる
IT土方の現状
多重請負構造を適切に利用されるケースもあります。
ただ、価格競争激化によってデメリットが多く見受けられることがほとんどです。
①労働条件が不透明:下請け企業から下請け企業へ作業が委託されるため、労働条件や労働環境が不透明
②労働者の権利侵害:下請け企業や派遣会社が、労働条件や給与を不当に低く設定し、労働者の権利を守らない
③コスト削減競争:各企業がコスト削減のために奮闘することで、下請け企業や派遣会社は、労働条件の悪化や賃金の低下を余儀なくされる
④リスクの移転:元請け企業が責任を回避しようとする場合、下請け企業や派遣会社が不当にリスクを負う
⑤キャリア形成の妨げ:下請け企業や派遣会社での勤務経験が、他の企業での就職に対して評価されにくい
2.IT土方の脱却について
これは先に挙げた多重請負構造のデメリットや、現状の裏返しになると思います。
①内部労働市場の構築:企業が内部労働市場を構築し、直接雇用を増やすことで、多重請負構造を減少させることが可能(製造業でいう工場のようなイメージ)
②労働条件の改善:労働条件や労働環境を改善し、魅力的な労働条件を提供することで、多重請負構造を脱却しやすくなる
③労働法の強化:労働者の権利や労働条件を保護することで、企業が偽装請負を行いにくくすることが可能
※幅広い業界のため労働市場や産業構造の特性に応じて、効果的な対策を検討する必要がある
偽装請負を行う中間業者潰さないと無理っす。
3.ワークライフバランスについて
話の切り口を変え、多重請負構造のメリットについて深堀りしたいと思います。
私が元請けを辞めてまで、多重請負の下流に求めた理由の一つでもあります。
労働時間と生産性
下流に行けば行くほど会社規模は小さくなりがちですし、スタートアップした会社が多くなりがちです。
ですので、大企業と違って、労働時間の自由や新しいことへのチャレンジ等が出来やすいのがメリットの1つではあります。
また、下流に行くにつれ、仕事に対する責任度合が低くなる傾向もあります。
その分、賃金も落ちます。
<下流に向いてる人>
新しいことをやりたい人。自由を求める人。責任の耐性が弱い人。
4.最新の働き方とは?
フリーランスとして働く
自分の生活に合った作業量を選べるため、フリーランスとして副業やWワークをする方が多く見られます。
スキルによって賃金の上下が激しいので、安いとも高いとも言えませんが、いずれにしてもスキルを磨くことが早道です。
上流を目指すならば、最低でも国家資格である「基本情報技術者試験」に合格しておきたいところです。
個人的にですが、国家資格の中でもIT業界の国家資格はほとんど価値を感じません・・・
ただし、「最低でもこのレベルの知識はある」という担保になるので、所持していた方が断然有利です
私が愛用していたお勧めの教本はこちらです(参考までに)。
栢木先生のシリーズは個人的に一番分かり易かったです。
スタートアップに参加
IT業界も色々な製品が次々と出てくるため、その都度ビジネスチャンスが生まれます。
ここぞ!というときにチャレンジしてみるのもいいかもしれません。
5.IT土方の未来
技術の進化に伴う新しい職種
技術の進化が激しく、次々と新しいビジネスが誕生しています。
現段階で有名なところを何点か上げるとすると・・・
①データサイエンティスト:ビッグデータを解析し、企業や組織に有益な情報やトレンドを抽出するビジネス
②AIエンジニア:人工知能(AI)システムや機械学習モデルを開発・実装・提供するビジネス
③AR/VRデベロッパー:拡張現実(AR)や仮想現実(VR)技術を用いて、新しい体験やサービスを提供するためのアプリケーションを開発するビジネス
逆に、このようなソリューションはハードウェアが支えています。
障害時等はリモートでも確認できませんから、ハードウェアのエンジニアや保守は未来も必要な仕事になると思います。
学び続ける姿勢が重要
この業界は技術の進歩が激しいですから、アンテナを高くして常に新しい技術や知識をキャッチする必要があります。
自分はニュースアプリやSNSで情報をキャッチし、概要ぐらいは掴むようにしています。
6.さいごに
今下流におり、上流へと下剋上を目指すのであれば、トレンドを理解し、スキルを磨き、バランスの取れたキャリアを実現できるよう頑張ってください!
下流は下流で働き方が自由になるので、それはそれで私は好きです。
問題は、意味のない中抜き業者が跋扈していることです。
皆さん、頑張って駆逐していきましょう!
これからシリーズ化して、多重請負業者の現場あるあるを発信していく予定です。
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